2013年7月2日火曜日

「銀河ヒッチハイクガイド」には確かに究極のこたえが書かれている

新橋の小さな居酒屋で、気心の知れた会社の仲間たちと時間を忘れて飲んでいると、つい自分のことを喋りすぎるものだ。
その日も、自分がいかにSF小説を愛しているか語っていたのだと思う。
いつもは本の話などしない後輩が寄ってきて「宇宙の果てのレストラン」って知ってますか、と話しかけてきた。

ハヤカワと創元がSFなんだと思っていた僕は、新潮社から出ていたその傑作を知らなかった。

翌日後輩は、ボロボロになるまで読み込まれた新潮文庫の「宇宙の果てのレストラン」を持ってきてくれた。
ユーモラスではあるが、ナンセンスはない。
カート・ヴォネガットのタイタンの妖女によく似ているが、知性も、それが皮肉であることも隠さない書きぶりが異彩を放つ。
設定がわかりにくいところがあったが、あとがきによれば、これは「銀河ヒッチハイクガイド」という小説の続編だという。

たちまち夢中になって、自分でも購入しようと思ったが「ガイド」も「レストラン」も絶版で入手困難とのことだった。
僕は催促されないのをいいことにその本をずっと自分の本棚に秘匿していた。

だから2005年に河出書房新社から今まで刊行されていなかった続編を含めての復刻&シリーズ全巻の刊行が発表された時は、ああこれでやっと返せる、と胸をなでおろしたのだった(いや、普通に返せよ)。


一年かけて復刻刊行された全五巻を、終始ニヤニヤしたり時々吹いたりしながら、とにかく笑いとともに読んだ。
この本に教訓を求めてはいけない。
ここにあるのは、よくぞオレの気持ちをわかってくれて、そんでもってこんなに上手に当てこすってくれてありがとう!という共感なのである。


物語の冒頭、地球人アーサー・デントは、バイパス建設予定地の上に建っている自分の家をブルドーザーに壊されそうになって抗議すると、ちゃんと掲示してあるんだから抗議するんなら事前にやってもらわないと、と言われ役所に見に行ってみると、照明の切れた地下の掲示場の使用中止と書かれたトイレの奥に廃棄されたキャビネットの引き出しの奥に貼り付けられた掲示を発見する。(なんでオレが書くとこんなに面白くないんだ?)

そしてまさに同じ時、大宇宙でも銀河ハイウェイの工事を行なっていて、邪魔な場所にある地球の破壊予告が50年も前からアルファ・ケンタウリの出張所に掲示されていたが、誰の抗議もなかったため、地球そのものが一瞬にして破壊されてしまう。

さすがにここまではひどくないが、こういうことってあるじゃないか。
ともかくこんなふうに物語は始まる。

ところでアーサー・デントだが、たまたまヒッチハイクで宇宙を旅していた男が地球にもぐりこんでアーサーの友達になっていたため、地球の破壊を察知してギリギリで助けてくれる。
かくして地球最後の生き残りとなったアーサーだが、地球破壊の仇討ちをするでもなく、地球復興を誓うでもなく、ヒッチハイクの旅を始める。

そして紆余曲折の果て、生命と宇宙と万物の謎の一端に触れるも、気付かず、といったような話だ。


その旅の道連れの一人?が、パラノイアに罹患した根暗ロボットのアーヴィン。
しかし大きな災厄に見舞われて仲間とはぐれてしまう。
彼はたどり着いた惑星で、何かにつけてああしろこうしろ、これは禁止だ、という立て看板だらけの山を見つける。

さすがにそこまではないが、そういうことってあるじゃないか。
「スピード出すな」だの「ここにゴミを捨てるな」だの、挙げ句の果てに「トイレを綺麗に使ってくださってありがとうございます」だと。

必要な掲示は故意に隠され、言わなくてもわかっていなくてはならないことは、五月蝿いくらいに書いてある。それが世の中だ。

銀河ヒッチハイクガイドシリーズは、このようなエピソードを積み重ねて、おおげさに言えば「生命と宇宙と万物の謎」を暴こうとする試みである。
作中でも、超知性を備えた汎次元生命体がこの宇宙の時空で二番目にすぐれたコンピュータ、ディープ・ソートを設計して、『生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え』を計算させるというエピソードが出てくる。

ディープ・ソートは750万年かかって答えを計算し、この偉大なる日のために集まった人々の代表に、答えは「42」だ、と告げる。

皆は当然ディープ・ソートの答えに納得がいかないが、ディープ・ソートに、42が何を意味するかを問う「究極の問い」が分からないから答えの意味が分からないのだと言われてしまう。
そしてその究極の問いを計算する、この宇宙の時空で最もすぐれたコンピュータを設計してくれるのだが、生命体(人間のことです。はい)を取り込んだそのコンピュータこそが、地球。
あまりに大きいのでよく惑星と間違えられるのだそうだ。

しかし、答えが出る前に、銀河ハイウェイ工事で取り壊されてしまった地球。
で、実はこのハイウェイ工事もでっちあげで、生命の意味が知れ渡ることで自分達の仕事がなくなることを恐れた精神科医と哲学者の組合が、地球を壊すためにヴォゴン人を雇ったのが真相だったとは!
というわけで最後の生き残りであり、謎の答えを脳に刻んでいるアーサー・デントは銀河中から追われる身となってしまう、というお話。

どうです、面白そうでしょう。
おいおいネタバレじゃないかって?
これは確かにこの物語の核心ですが、読みどころが核心部分にないっていうのが、この小説の稀有な価値なのですよ。
むしろこういう大きな構造をわかって読んだほうが、大切な細部の笑いどころに集中できるってもんです。


ちなみにGoogleで、電卓を表示させて、the answer to life the universe and everythingをコピペして計算させてみて欲しい。
いかにこの作品が欧米圏で愛されているかがわかるから。

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