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2016年3月13日日曜日

クリント・イーストウッド監督作品「ヒアアフター」を観る

クリント・イーストウッド監督の「ヒアアフター」を観た。
「許されざる者」以降のイーストウッド映画にはいくつか、スッキリとわかりやく解釈することができない映画がある。これはその最右翼と言えるだろう。

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来世(=ヒアアフター)の存在を僕自身は信じていない。
が、だからといってこの映画の描こうとしている心象風景を否定する理由にはならない。
「死」そのものは厳然と存在する。

霊能力者のジョージ(マット・デイモン)は、触れた人間に関わりの深い死者とコミュニケートすることができる。
そしてそれゆえに、生者の世界とディス・コネクトしてしまう。

しかし、人は一人では生きていけないのだから、ディス・コネクトだってコネクトの結果でしかない。
ジョージのような特殊な能力が無くても、人は常にコミュニティとの断絶の可能性をリスクとして持っている。

双子の兄を喪った少年マーカスは、そのようなリスクが実際にその身に降りかかった者として描かれている。社会との接点をその兄ジェイソンに全面的に依存してきたため、彼の死によって社会から孤立してしまうのだ。
マーカスは、ジョージの能力によって、亡くなったジェイソンの最後の指示を聞くことができ、それによって社会に戻っていくことが出来た。
死者自身の言葉でしか、その死を受け入れられないこともあるということだろう。

ではジョージのディス・コネクトは誰が救うのか。
料理教室で知り合った女性に心惹かれるが、やはり能力によって知ってはならない過去を暴いてしまい、関係は破局する。
ラストで、ジョージを救うのが「臨死体験」を持つジャーナリストの女性、マリーである。
マリー自身も臨死体験に縛られ、それまでのキャリアから放逐されてしまっているから、ジョージとの出会いは彼女にとっても救いであったろう。

死にとらわれた者を、死にとらわれた者が救う。
しかしジョージのような能力を皆が持たないこの世界では、このような救いは容易に実現しない。
で、あれば誰かの死を受け入れるために僕らができることは、生者の「思い残し」を死者のせいにしない、ということしかないだろう。

2016年3月12日土曜日

日本という国の転換点を描いた「許されざる者」という傑作


クリント・イーストウッドの「許されざる者」を観て、映画を見る目が変わった。それ以降、昔観た映画を見なおす度に、えっこんな映画だっけ、と思うようになった。
そんな「許されざる者」が日本映画にリメイクされてしかも撮影場所が北海道と聞いて、DVD出たら観ようと思っていたのだが、ロードショー時あまりに評判が悪かったので、観ないままになっていた。
昨日、たまたま目についたので借りてみたのだが、ナニコレ面白いじゃん。

船戸与一の「満州国演義」も、戦争に向かっていく日本を描きながら、結局「明治維新とは何だったのか」というポイントに収束していく。乙川優三郎の「脊梁山脈」もそうだった。
日本版「許されざる者」リメイクにも、この視点が巧妙に脚本化されていて見事だ。イングリッシュ・ボブのくだりを翻案した北大路エピソードは、当時の長州と薩摩の摩擦を描いて、このような小さな、あまりにも人間的な内実が、後に軍部の暴走という大事に繋がっていく事実を読んだ後では、非常に強いリアリティを感じる。アイヌ差別の実態もフィクションならではの明快さで切り取っていて深く頷かされた。

また映像の美しさ、音楽の素晴らしさにも心を揺さぶられた。

イーストウッド版と比較することは無意味だろう。枠組みは同じでも描こうとしたものはまったく異なっている。
それはラストを観ればわかる。
日本版では、十兵衛は姿を消し、五郎(柳楽優弥)となつめ(忽那汐里)が新しい生き場所を見つける。対してイーストウッド版はマーニー(イーストウッド)の人生が意外にも成功者として続いていくのだ。
人間の心は善と悪のような二分法では語れない。ふたつながら抱え込んで、答えのないまま生きていくしかない。成功しても失敗してもそれは偶然でしかない、というイーストウッド版の人間観と、日本という国の歴史の転換点を、北海道という辺境に生きた人たちの小さいが確かな生を通して描こうという試みの違いだ。


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2015年11月29日日曜日

岡本喜八「ブルークリスマス」と庵野秀明「エヴァンゲリオン」、あるいは竹下景子の異次元の清純さについて

旧い友人たちと、思い出のある居酒屋で旧交を温めていた。
懐かしい話に花が咲く中、そういえば昔はみんなタバコ吸ってたよなあ、という話になった。喫煙者と非喫煙者の割合は完全に逆転していた。

映画が好きなその先輩は、昔の映画に喫煙シーンが多いことを説明しようとひとつの映画のタイトルを挙げた。
それが「ブルークリスマス」
喫煙シーンのことを例示したくて挙げたのに、内容の説明が面白すぎて本題を忘れてずっとその映画の見所を語っていた。
ストーリーももちろん面白そうだったが、主演女優が竹下景子さんであることが僕の心に刺さった。
エラリー・クイーン「災厄の街」の映画化「配達されない三通の手紙」に出演していた若き日の竹下景子さんの可愛らしさに心奪われていたからだ。
「配達されない三通の手紙」の竹下景子

僕がそう言うと、「絶対ブルークリスマスの竹下景子のほうが可愛い」と断言された。
これは観るしかないでしょう。

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ところがことはそう簡単ではなかった。近所のレンタル店には在庫がなく、頼りのディスカスでは豊富な在庫があるのになかなか単品リストに入らない。古い映画なのに人気があるのだと知って、先輩が名作と強調していたのがよくわかった。

で、やっと来ました。
再生を始めると、タイトル画面にサブタイトルが記されていた。
BLOOD TYPE:BLUE
ピンときた人も多いだろう。

エヴァンゲリオンで、使徒が現れた時「パターン青。使徒です!」と言う時、ディスプレイに表示されている文言である。
庵野秀明は、ブルークリスマスを撮った岡本喜八監督からの影響を常々公言している。
戦争を経験した表現者(戦中派)は、しばしば戦時中同じ人間であるはずの敵国の人々を鬼畜と呼んでまるで別の生き物であるかのように考えていたのが、戦後突然錯覚であったことに気付く不思議をテーマにしている。
「敵」と「味方」をわかつ根拠が、人間自身の心の弱さにあるというテーマは、エヴァンゲリオンとこのブルークリスマスに共通する主題であるといえるだろう。

ブルークリスマスは、UFOから照射された光線でヘモグロビンの中の鉄が銅に変化してしまい、ヘモシアニンになった血が青くなることで迫害を受ける人々の物語である。

ヒトとシト、赤い血と青い血は、それぞれの物語で最後に溶け合う。

その意味するところは、たぶんここで言葉にすべきでないものだろう。観るものの心に生まれる感慨そのものを大切に抱いていくしかない。
これはきっとそういう映画だ。

そんなことより竹下景子だ。

可愛いですね。これこそが清純派でしょう。清純さのレヴェルが現代とは異次元にある。
そしてこの可愛らしさを演出するのに岡本喜八監督が使ったこのシーン。





背の低い竹下景子が、勤めている理髪店のシャッターを閉めようとジャンプ一閃。
見事に閉めてクルッと振り返るとか。天才や、岡本喜八。
監督も素晴らしい演出と思ったかラスト近くでもう一回飛びます。
いいなあ。
死してなお美しい。
クイズダービーの三択の女王の姿しか知らなかった竹下景子さんの映画作品。
まだまだ開拓していきたいです。

映画内では、ビートルズをモデルにしたと思われるザ・ヒューマノイドというバンドが歌う「ブルークリスマス」という曲が頻繁に流れるが、この歌を実際に歌っているのがなんとCHARさんです。
やっぱりタバコくわえてますw


映画で使われているのがこちら。

日本語バージョンもありました。
発売されたシングルはこちらがA面で、英語版がB面に収録されていたそうです。
なぜか、日本語バージョンのほうがテンポが速い。なぜなんだろう。




2015年6月28日日曜日

映画「ハンナ・アーレント」〜我々の日常に棲む悪の凡庸

映画「ハンナ・アーレント」をやっと観た。

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観終わって胸を刺すのは、現代社会に生きる我々は、程度の差はあっても皆が凡庸なアイヒマンなのではないかという疑問だ。

会社に所属して仕事をしたことのある人間ならば誰でも、「それが仕事だから」というだけで、特に良心に問いかけたりせずに上司からの命令に従って日々を送った経験があるはずだ。

殺人犯が書かれた本は、それを禁じる法律が無いという理由で出版され、ベストセラーになるし、 キッチンでは、表示された消費期限が来ていなければ、食べられるものと判断するだろう。

科学は進歩し、社会は高度化したが、かえって我々の思考は停止している時間の方が長くなったのではないか。
世の中にはとうてい見きれない程のチャンネル数を備えたテレビシステムがあり、インターネットには日々膨大なコンテンツが流通している。
ネットに集積した口コミを眺めていれは、明日何を食べようか考える必要はない。自分に相応しくない店に足を踏み入れてお店に冷たくあしらわれたら、ネガティブな書き込みをして復讐だってできる。
何か答えが知りたければGoogle先生が、Wikipedia先生が、そして池上彰先生までもが、ハイデガー先生のかわりに教えてくれる。考える必要はない。信じればいい。

ハンナ・アーレントが、アイヒマン裁判を通して警告した現代の新しい悪である「凡庸さ」は、それが人間の深い部分に根ざした心性の悪でないゆえに、簡単に蝕み、簡単に拡散していく。
このことは広く理解されないまま、事実現代の病理として今我々の日常の中に静かに存在しているのではないか。
だとしたら今度人類が起こす悲劇は、アイヒマンを絞首刑にして終わるようなものではないのかもしれない。

映画のラスト8分のスピーチにあった「考える事で人間は強くなる」という言葉を信じたい。John LennonがImagineで歌ったのもきっとこのことだったんだと今は思う。

2015年4月11日土曜日

この作品が「ルパン三世」というズバリのタイトルでいいのだろうか

実写版「ルパン三世」を観ました。
しかしこのタイトルは何なんだろう。
映像作品だけでもオリジナル3シリーズにたくさんの劇場版、TVスペシャル、優れたスピンオフが複数あるのに、ズバリ「ルパン三世」とは。
これが決定版であるとでも言うつもりか。

小栗旬のルパン三世については、特に申し上げることはない。
メインキャストの中では玉山鉄二の次元大介が一番カッコよかったかな。
綾野剛は、いつも通りで、まあ何を演じても何かを演じている綾野剛のままだった。

黒木メイサの峰不二子は、予想以上に健闘したと言っていいと思う。
だいたい、森雪と峰不二子というキャラクターは、現実に置き換えないからこそ成立するアイコンとして設計されている。
そういう役に抜擢されているという事実が彼女の女優としての評価なのだろう。

映画全体を通じて古臭いイメージを感じるのは、たとえば兵士が爆弾にふっとばされているシーンでの体の動きがありのまますぎる、というような不作為のせいだ。
マンガやアニメに見られるようなデフォルメされた動きを作りこむことで、ホンモノでないからこそ感じられるリアルが標準になった今、どうしてもこの映画の動きはやっつけ仕事に見えてしまう。
CGで何でも出来てしまう今、リアルの定義は明らかに変わりつつあるのだ。


不幸な条件もあった。
「峰不二子という女」という先行スピンオフがあまりにも良く出来ていたため、峰不二子の過去を改変する、というこの映画の(唯一の)シナリオ上のフックが無効になっている。
またこの「峰不二子という女」という作品、ジャズがホンモノだった。
菊地成孔が作り出した、ルパンのジャズ。

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それにひきかえ、小栗版ルパンのジャズが中途半端なことといったら!
それっぽいシーンに挿入されただけでは、いくらフレーズがジャズっぽくても、それはジャズっぽい音楽であるというだけだ。
全体を通底するテーマが流れていなければ。
その意味では布袋寅泰のテーマ曲も有効に機能していなかった。

この映画をプロデュースした人間からは、ルパン三世という長い歴史を持つ作品に対する敬意のようなものも感じられないが、もっと基本的なところで作品作りというものを甘く考えているのではないか、という気がしてならない。


よかったところもある。
映画でメイサ不二子の乗ってるバイクがハーレーじゃなくてYAMAHAのVMAXだったことと、ルパンのフィアットが古いチンクエチェントじゃなくて、新しいチンクだったこと。


ちょうどいいんだよ、そのくらいが。
カタチだけ真似ても仕方ないんだ。

あと、最後に銭形が追っかけるシーンで古い国産車が使われてるんだけど、その中に初代のチェイサーがあって、それもよかった。


だってベタでしょう。チェイサーで追っかけるなんてさ。
そのくらい自虐的にふざけてくれないと、ちょっとやりきれないよ。この映画。

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2015年4月9日木曜日

フォーシーズンズの光と影~「ジャージー・ボーイズ」クリント・イーストウッド

フォーシーズンズの名前を初めて知ったのは小学校4年生の時だった。

当時学校ではベイ・シティ・ローラーズが流行っていた。
クラスメイトのお姉さんが持っていた3枚のアルバムを録音してもらって、自分のラジカセで何度も聴いて歌っていた。そのうち自分でもあの大きなジャケットに収納された丸いレコード盤が欲しくなって母におねだりした。
とはいえ、当時我が家の音響機器はナショナルのラジカセだけで、レコードプレーヤーはなかったのだ。

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父はあまり音楽に興味がない人だったが、翌日東芝のモジュラーステレオを買ってきてくれた。肝心のレコードは、母と一緒に当時釧路で一番大きな百貨店だった丸三鶴屋のレコード売り場に買いに行った。
そこで買ってもらった「ニュー・ベスト」というベスト盤の最終曲として収録されたバイ・バイ・ベイビーのオリジナルがフォーシーズンズだったのだ。

その後、例の「君の瞳に恋してる」を何度もラジオで聴いて、フランキー・ヴァリの名前も聞き知ってはいたが、その人がフォーシーズンズのリード・ヴォーカルだとはずいぶん後になってから知った。

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そのフォーシーズンズの伝記的ミュージカルをあのクリント・イーストウッドが映画化すると聞いては黙ってはいられない、と言うわりには結局劇場には行かずDVDでの鑑賞となった。

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しかしまあ、クリストファー・ウォーケンが出てくるだけで、画面の中の人間関係に奥行きが出てくるのはどういう仕掛けなんだろう。映画によってさして演技を変えているようには見えない。
彼自身の人柄のなせる技なのでしょう。いつもどんな役をやっても彼自身はクリストファー・ウォーケンにしか見えないのだから。
「ディア・ハンター」以外では、「ヘアスプレー」や「25年目の弦楽四重奏」といずれも音楽系の映画でお逢いすることになったので、何か音楽とのご縁があるのかなと思って調べたらもともとミュージカル俳優だったのですね。

BCRがカバーしたバイ・バイ・ベイビーと君の瞳に恋してるしか知らなかったが、ボブ・ゴーディオという才能あふれる作曲家の音楽をこれまで聞き逃していたことが残念になるくらい、映画は素晴らしかった。
ある意味優等生(ベビーフェイス)的な音楽だが、映画で描かれた彼らの人生は順風満帆とは対極の壮絶さだった。
マフィアとの繋がり。多額の借金。不法侵入。窃盗。逮捕、収監。
クリント・イーストウッド作品に共通して流れる、善悪の二分法を拒絶する雰囲気が彼らの音楽そのものにもあるのだ。

許されざる者、グラン・トリノ、ミスティック・リヴァー、トゥルー・クライム。
善悪という相対の中に揺れる自我と、それを錨のように繋ぎ止める「家」という存在が、イーストウッドの映画にはいつも描かれている。
その意味で、このジャージー・ボーイズという作品を、これほど「正しく」映画化できる監督も、クリント・イーストウッドしかいなかっただろうと思うのだ。


2015年4月8日水曜日

もうひとつのゴースト・オブ・トム・ジョード~「インターステラ-」クリストファー・ノーラン

クリストファー・ノーラン監督の最新作「インターステラ-」が早くもDVDになったので早速レンタルしてきた。
逸る心でプレーヤーにディスクをセットすると冒頭の砂まみれのシーンから、「怒りの葡萄」の印象的な導入部が想起された。

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怒りの葡萄は、文豪スタインベックの代表作。
1931年から1939年に実際に起きた「ダストボウル」と呼ぼれるグレートプレーンズを断続的に襲った砂嵐を題材に採っている。
ダストボウルは、作物以外の草木を根こそぎ刈り取ってしまう効率重視の大規模農法が、剥き出しになった肥沃な土壌を乾燥した砂に変え、それが風に乗って砂嵐になる現象だ。
オクラホマ州の多くの農民は、その苛烈な砂嵐に作物をやられ、土地を捨てざるを得ず、果樹園での働き手を探していたカリフォルニア西部に移民していった。
怒りの葡萄は、エジプト王の圧政に耐えかねて約束の地カナンへ旅立つ旧約聖書の「出エジプト記」にその構造を借りている。
クリストファー・ノーランも、インターステラ-を「出“地球”記」として描いたのかもしれない。


約束の地カナンを探す宇宙への旅。
この旅の途中で人類は次元認識の異なる異種族とのファーストコンタクトを果たすが、これはまるでカール・セーガンの原作をジョディ・フォスター主演で映画化した「コンタクト」のようだ。

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そういえば、「コンタクト」にもマシュー・マコノヒー出てますね。


ワームホールや、異次元の認識に「時間」を使うなど道具立てがよく似ているからそう感じるのだが、映像の表現力はやはりクリストファー・ノーランに軍配が上がる。
 「インセプション」の夢の世界も素晴らしかったが、今度の宇宙も凄いよ。
特に「時間」という我々の目に見えないモノを可視化した映像技法には本当に感心した。
もし時間を視る目があるとしたらきっとあんな感じなんだろうと思わせる。


「出エジプト記」や「怒りの葡萄」のような、権力に虐げられる民衆とその中から立ち上がる導き手の物語は、西欧圏のコミュニティに深く根付いている。
ブルース・スプリングスティーンは、1995年のアルバム「ゴースト・オブ・トム・ジョード」で、アメリカは未だ怒りの葡萄の問題を解決してはいない、と語りかけている。
怒りの葡萄の問題意識は、今やグローバルに拡大された。
経済圏を拡大すれば国家の問題も世界の問題となる。

インターステラ-で描かれる未来世界も、疫病で主要な農作物が次々と地球規模で全滅し、食糧戦争で疲弊しきっている。
もはや最後に残されたトウモロコシの絶滅を目の前にして、人類の命運も風前の灯火となった。
しかし、教師までが「アポロ計画」はソ連を破産させるためのプロパガンダ。宇宙計画は二十世紀という贅沢と浪費の徒花で、だから科学教育などは無駄だと言い、未来を切り拓く力をもった子どもたちは生まれようがない社会になってしまっていた。

今を生きる我々に、それをまるっきりの絵空事と笑うことは出来まい。
爆発的に増え続ける人口は現実の問題だ。
それを養うために、遺伝子を操作して人間に都合よく作り替えられた動物や植物たち。
温暖化をいいながら、二酸化炭素の排出量をカネで取引する国際社会。
役に立つか立たないかを基準に、子供の教育を考える人たち。
何が起きてもおかしくない。
その時、導き手は現れるのだろうか。

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2015年4月6日月曜日

少女ヒーローの系譜を継ぐもの~実写映画版「Another」

福田沙紀主演のテレビドラマ「メイド刑事」は、スケバン刑事の流れを正統的に引き継いで、00年代を代表する少女ヒーローものの傑作と思うが、それもそのはず。原作者の早見慎司氏は筋金入りの少女ヒーローヲタクなのである。


そんな筆者が新刊「少女ヒーロー読本」で本領を発揮している。
角川映画が作った若年向け邦画マーケットの中から生まれた傑作「セーラー服と機関銃」を嚆矢に、不良少女とよばれて、ポニーテールはふり向かない、スケバン刑事と続いていく「少女が戦う」ことの商品価値を語り抜く。

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現在入手できないマニアックな番組も含め、詳細に語りおろしていくが、なぜかこの「少女が戦う」ドラマにはバカバカしい演出が頻発し、そのバカバカしさを大真面目にひとつひとつバカバカしいと断罪していく筆致が実に痛快な傑作評論だ。

その最終章をまるまる使って「つみきみほ」という女優について語られている。
懐かしい名前だが、実は近年も実写映画版の「Another」に出演していると聞き、原作も読み、アニメ版も清原紘版のコミックも、オリジナルアニメ付きの予約限定版コミックも入手したというのに、実写版だけは観ていなかったことを思い出して、借りてきた。

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実際に観るまでは見崎鳴を演じる橋本愛がミスキャストではないか、と懸念していたが実にVery Goodで、ミステリアスな造形から、後半素顔を見せていくところがあるのだが、この性格描写は実写版が一番よく描けているかもしれない。

問題は「赤沢さん」だ。
Anotherという物語は、見崎鳴と赤沢泉美の対立軸が背骨になっている。
重要な役なのである。
漫画版でもアニメ版でも入念なキャラクターデザインが施されている。



なのに実写版ではクライマックスの合宿シーンまで、ほとんど赤沢さんの出番はないのだ。



これはマズイ。
女優さんに責任はない。物語の冒頭から「現象」の対策に責任を持つ立場としての赤沢泉美を描いていないから対立構造が生まれないのだ。食堂でのイザコザなんかでそれを表現しようとしているからいかにも軽い。


この対立がないと、「死」と距離を置きたい見崎鳴が、その気持ちを押し切ってどうしてもこの「現象」の解決を自分の手で、という決意が生まれてこない。
案の定「もう誰も死んでほしくないの」などという実に彼女らしくない台詞で動機を説明することになってしまっている。
緻密な骨格を持つ作品だけに細かい改変が随所に影響を及ぼす。
残念だ。

原作既読者は、「死者」に関するある叙述的なトリックが映像作品でどう処理されているか気になっている方もいらっしゃるだろう。
漫画版もアニメ版もうまく処理していたが、人間が演じる実写ではどちらの手も使えない。そこで脚本をうまく変更して対応していた。
まるで違和感はなく、現実的。
この処理は原作よりも優れていると思う。


で、肝心の「つみきみほ」だが、本当にワンシーンのみの登場で、きっとあらかじめ意識していなければ「つみきみほ」だとは気づかなかっただろう。
若い時の顔が思い出せなかった。
「時をかける少女」でも、細田守アニメ版にも、仲里依紗版にも、成長した芳山和子が出てくるように、かつて花のあすか組などで、少女ヒーローの時代の終焉を看取ったつみきみほが、どちらかというと過保護な親類を演じるというところに意味があったのだろう。
しかし脚本も演技もそのコンセプトを表現できていたとは言いがたい。
Anotherという作品を二次的に表現し尽くしたのはアニメ作品の方だった。
よりカネの集まるアニメの世界の方に人材が育ってきた、ということなのかも知れない。


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2014年12月7日日曜日

ウディ・アレンのロンドン三部作に心が動かなかった理由

ウディ・アレンのロンドン三部作、全作観た。
正直どの作品もピンとこない。

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ウディ・アレンの映画に描かれる恋は、それまでの「生活」という連続体を、突然分断する。いくらなんでも衝動的にすぎて、それはいつも僕の価値観からはみ出している。

確かに「恋」という心理状態そのものは化学反応である。
比喩ではない。
強く心を動かす相貌が、ドーパミンを分泌させ、テストステロン値が上がることで性的欲求を亢進する。
ドーパミンはまたノルアドレナリンを派生し、人をある種の躁状態に導く。
脳内ドーパミン濃度が高まると、セロトニンの濃度が低くなって強迫観念に囚われる。

つまりこれは人のアンコントローラブルな本能だ。
だからこそそれは人間の「恥」の根源となる。

つまり、恋そのものは生理的で反射的なものであり、それが引き起こす社会的な存在としての自分の危うさをどのように飲み込んでいくかに、自分自身の本質が現れるということだ。
映画や文学が、他者と異なっているかもしれない自分自身の本質についての理解を描きたいとする情熱なんだとすると、「恋」そのものだけはその対象になりはしないということだと思う。
ウディ・アレンの描く「恋」は、その衝動の部分だけが描かれ、翻弄もされなければ抗いもしない。

一方この三部作ではそれに加えて、殺人や犯罪をテーマとして取り扱っている。
ウディ・アレンの描く殺人者は自らの行為に過度に逡巡する。
そして捜査する警察は殺人事件だろうとなんだろうと、サラリーマンとして事件を常識的に手順として処理していく。
「恋」の場合とは逆に僕の日常的な価値観の範疇に収まってしまっている、ということだ。

「殺人」なんだよ。
殺すということは、愛するということと密接な関連がある。
なぜなら人は「殺害できる」ものしか愛することができないからだ。
自分を殺害の対象とするものを愛することが出来るだろうか、と自問すればこの言葉の意味がわかるだろう。
犬や猫が僕らを殺しうる能力を持っていたら、または綺麗な花たちが突然僕らに噛み付いてくるようなものだったら、それらを愛することはできないのである。

だから殺人に関して言えば、物理的な障害はさほど大きくない。
むしろ、自分を殺すことなどないだろうと思っていた愛する人が、ある日自分に凶刃を向けるということが倒錯であるからこそ恐怖なのであり、「人を殺していけない」という刷り込まれた道徳観を乗り越えていくほどの事情にこそ描くべき個別性がある。
それは決して、日常の価値観に収まっていてはならないものだと僕は思うのだ。

だからウディ・アレンの映画は人間を何かの器のように描いているように思えてならない。
そのような目で見ると、器としての都市、器としての家、人間関係、自動車、楽器、服装、身のこなし、仕事、それらのすべてがスタイリッシュに描かれている。
悩みさえも。

美しくパッケージされた美意識。
それがウディ・アレン映画から僕が感じるもので、それはいまのところ僕の心を動かさない題材であるように思う。残念ながら。

2014年11月14日金曜日

サスペンスの複層構造:「インセプション」

クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』は、SFアクションの映画だが、同時にどうしようもなくサスペンス映画なんだと思う。

ここではまず、サスペンスとは何か、について確認しておきたい。
テキストに、北海道大学出版会「日本探偵小説を読む」に収蔵された、僕の大学時代の友人でもある評論家大森滋樹氏の論文「サスペンスの構造と『クラインの壺』『ジェノサイド』の比較考察」を引用する。

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まず「サスペンス」の定義だが、権田萬治・新保博久『日本ミステリー事典』によれば、文学におけるサスペンスは、
主人公の不安、緊張など緊迫した心理を描くもので、論理的な謎解きよりも主人公の恐怖感に主点が置かれるため、心理小説的な色彩が強い。
と定義されている。

論文で大森は、サスペンスは
「自由意志の拘束」という状況で示される。
としている。
そしてその「拘束」は、「閉じ込める」「追い詰める」といった空間的な要素か、または制限時間を決め、その間に複雑な作業を手早く処理させ、刻々とセコンドを刻んでいく時間を限定するもの、あるいは両方を組み合わせて精神的な自由を失う状態を作り出す、としている。
そしてそれは、つねに生命の危機と絡む形でプロットに組み込まれるのだ、と。

さて、映画「インセプション」では、人の夢(潜在意識)に入り込んでアイディアを“盗み取る”特殊な企業スパイに、いつもとは逆にアイディアを“植え付ける”=インセプションのミッションが舞い込む。
植えつけたアイディアを自分のものと確信してもらうために、夢の中の潜在意識にさらに夢を見させ、その第二階層の夢の中で信頼する人物に扮した者からアイディアを吹きこませるというミッション。

クリストファー・ノーランは、この複層構造の夢の中で行われる冒険にある興味深い条件をつけている。
ひとつは、階層が深くなっていく度に時間の進度が速くなるというもの。
これはよくわかる。
僕らが実際に見る夢も、数十分に感じるものも実際にはほんの一瞬に経験しているものだそうだから。
しかしそれだけではない。さらにこの時間差のある世界で深い階層側に入ってしまった時は、その複数の階層に自分が必ず居ることになるのだが、すべて同時に目覚めないと現実社会に意識が戻ってこれないという制限までついている。
映画では、ミッションがスムーズにはいかず、結局第四階層まで潜っていくようになる。
第一階層の夢の中でほんの数秒しか残されていないタイムリミットの中でミッションを成し遂げるために。

この時間の進度に差異がある世界構造をうまく使って、サスペンスの定義にある、時間的制約を何倍も複雑で面白い制限に仕立てているのだ。

もうひとつは、どこかの階層で死ねば、その一階層下から意識をサルベージしないと帰ってこられないというものだ。各階層には、心を守ろうと潜在意識が配置したコンバットが待っている。
実際キーマンが撃たれ、それを救うためにもう一階層深く潜らざるを得なくなる。
この一捻りもふた捻りもある空間的制限が、このミッションの達成を限りなく困難なものにしているのだ。

まさにサスペンスを知り抜いた脚本の妙味である。

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2014年11月13日木曜日

ボナパルティズムの倒錯と赦し:「レ・ミゼラブル」

映画「レ・ミゼラブル」は、ヴィクトル・ユゴーの同名小説を原作としたミュージカルを映画化したものである。
原作はナポレオンの敗走直後から六月暴動までの30年を描く大河小説であって、ミュージカルや映画では当然すべてを再現できず、簡略化されたストーリーとなっている。

それでもヨーロッパ史に詳しい西欧文化圏の視聴者ならば、たとえば、マリユス・ポンメルシーはボナパルティズムの人であって、行動をともにしている共和派の秘密結社の人たちとは信条が異なってはいるが、それでも小異を捨てて、フランスの王政復古を阻止しようと行動しているということはわかるのかも知れない。


ボナパルティズムは、ある種の倒錯だと思う。
狭義には、ナポレオンの一族をフランスの支配者に据えようとする政治活動のことを言う。
しかし、ナポレオンのフランス帝政は独裁体制であり、フランスが多くの犠牲を払って勝ち得た革命の精神を逆行させるもののように見える。
続く対外戦争で、民衆の生活は疲弊し、国土も荒廃した。
それでも、文官が行う金権政治の腐敗よりも、フランスのために戦う為政者がもたらす自らの痛みのほうがましだ、というボナパルティズムが、倒錯でなくてなんだろうか。

しかしこの倒錯の中にこそ人が人を赦すということの本質が潜んでいると思う。

劇内でミリエル司教が、銀器を盗んだジャン・バルジャンを無罪放免した上に銀の燭台までを差し出すシーンこそは<赦し>そのものだ。赦すという行為には自分の痛みを差し出し、他者を救うという側面がある。

では「革命」はどうか。
これは拒絶そのものだ。自らに痛みを与えるものを許さない強い怒りだ。

原作者ヴィクトル・ユゴーは、ボナパルティストであった。
フランスからヨーロッパ全体に広がった王政から民主制への革命の火が、何か誰もが誰も許さない自由という檻を自らに課した世界のように感じていたのではないか。

優れた為政者による絶対王政と、愚かな政治家による民主政治のどちらが優れているかという古くて新しい問いには、それでも権力は必ず腐敗するという黄金律がある限り、民主政治を選ばざるを得ないという答えを我々はもう得ている。
レ・ミゼラブルという物語が時を超えて愛され続けるのは、 それでも仕方なく民主制を選んでいるのだ、という認識に伴う謙虚さを僕らに思い起こさせてくれるからだと思う。

映画としては、スーザン・ボイルで有名になっちゃったあの歌のアン・ハサウェイによるパフォーマンスは本当に素晴らしかったですね。
エポニーヌ役のサマンサ・バークスも本当によかった。テナルディエの家に生まれて不運な人生を送るが恋が彼女を変えたっていう境遇を見事に表情で表現していた。テイラー・スウィフトとかスカヨハがオーディション受けてたっていうけど、こんな複雑な役、あのキャラでは無理だよね。
あとラッセル・クロウは、確かにはまり役だけど歌はちょっとキツイかな。
でもあれ歌はみんなご本人なんでしょう。みんな歌うまいんだなあ。

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2014年11月10日月曜日

ナイロビの蜂

「ナイロビの蜂」は、ジョン・ル・カレの同名小説の映画化作品。
もちろんフィクションだが、世界がアフリカを搾取しているのは疑いようのない現実だ。

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僕はコーヒー豆を焙煎し、コーヒーを淹れることを生業とする者である。
コーヒー豆はエチオピアのアビシニア高原を原産地とし、赤道から南北にそれぞれ緯度で10度の幅で広がる“コーヒーベルト”で広く栽培され、国家的な産業となっている。
しかし彼らの生活は貧しい。

BBCが製作したドキュメンタリーを映画化した「おいしいコーヒーの現実」という映画を観ただろうか。
ウルグアイ・ラウンドで、貿易交渉を細かく細分化して、交渉団に人数を割けないアフリカ勢に対して西欧諸国は一国200名近い役人を投入して、いわば状況的欠席裁判を作り出した様子が描かれている。
不満を述べるアフリカ勢に「君たちにはよくわかっていないのだ」と言って聞く耳を持たない先進国の代表たちの姿には、本当に恥ずかしい気持ちになった。

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地図がもしあればアフリカの地図を見て欲しい。
いたるところ直線的な国境で区切られている。
西欧列強の都合で、地図の上に引かれた「線」だ。
地形的な境界で形作られる文化的な民族区分を無視した資源のための線引。
その資源の中には「人」そのものも入っている。
労働力のことを言っているのではない。
奴隷として人身そのものを貿易していたのである。

奴隷貿易のような非人道的な行いがそう長く続くはずがない。
長い時間がかかったが奴隷貿易は廃止され、植民地経営も傾いた。
アフリカの各国は相次いで独立するが、不自然な国境は内戦を呼んだ。

映画でもこうした搾取されるアフリカの悲劇をテーマにしたものは多い。
「ホテルルワンダ」ではベルギー植民地時代に管理上分離されたフツとツチが、独立後の経済悪化で対立し、ジェノサイドを引き起こした事件を描いてる。

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そしてシエラレオネの内戦で紛争ダイヤモンドの存在が戦火を拡大している状況を描いた「ブラッド・ダイヤモンド」。

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音楽家たちも搾取され貧困にあえぐアフリカを救おうと動いた。
1984年のバンドエイド(英)、1985年のUSA for Africa(米)はそれぞれチャリティソングヒットさせ、85年夏、英米同時開催の大規模なチャリティ・コンサート「ライブ・エイド」に結実する。
この2つのプロジェクトから、ライブ・エイド・トラストという基金が立ち上げられ、継続的なアフリカ支援を行ってきた。

このプロジェクトを精神的に率いてきたといえるボブ・ゲルドフは、USA for AfricaのWe Are The Worldのレコーディングにも立ち会っているが、あまりにもお祭り騒ぎ的なムードに激怒し、集まったアメリカのトップスターたちにアフリカの惨状を延々と語り、全員の眼の色を変えたという。
レコーディングの様子を収めた映像を見れば、それぞれのアーティストたちがその日特別なオーラを放っていたのがわかる。
ボブ・ゲルドフはバンドエイド・トラストが稼働していてもなかなか改善されないアフリカの現状を憂い、2005年にも大きなイベント「ライブ8」を実施する。
素晴らしいイベント。
挨拶に立ったボブ・ゲルドフが、「これは音楽が世界に勝利した瞬間だ」と述べるシーンには何度も泣かされた。

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2001年にル・カレによって書かれた「ナイロビの蜂」が、映画化されたのが、このイベントと同じ2005年だった。
それから、また10年が経とうとしている。
アフリカは未だ民主化の大きなうねりの中を正しい道を探しあぐねて彷徨っているように見える。
経済の成功で存在感を大きくしている中国が、マラウイやシエラレオネに大きな影響力を行使しはじめていることは、かの国々にどのような影響を及ぼすのだろうか。

前出の「おいしいコーヒーの真実」には、ODAなどの支援になによりまず<学校>を作って欲しいと住民たちが訴えているにもかかわらず、ODAのカネを自国の企業の利益に還元したい先進国が井戸か橋しか作らないという現実も記録されている。

政治の問題は民主化された世界では国民自身の問題である。
こうしている間にも、アフリカから搾取し還元されてきた豊かさを我々自身が享受しているのだ。

「ナイロビの蜂」の冒頭、レイチェル・ワイズ扮するテッサが、「なんのために国連を作ったのか」とイギリスの外交官に詰め寄るが、これは自身が活動家で、奮闘するほどに募る徒労感ゆえだった。
無関心な大多数がいるかぎり、すべての負担が活動家に集中し、結果アフリカは、グローバル経済がいっそうドライブする国益至上主義の犠牲になり続けるだろう。
主権者のひとりとして、世界に関心を持ち、正しく影響力を行使できるよう努めていきたいと思う。

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