デイヴィッド・ゴードン
早川書房
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ハリーは冴えない中年作家。
シリーズ物のミステリ、SF、ヴァンパイア小説の執筆で何とか食いつないできたが、ガールフレンドには愛想を尽かされ、家庭教師をしている女子高生からも小馬鹿にされる始末。
だがそんなハリーに大逆転のチャンスがやってくる。
かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼から、告白本の執筆を依頼されたのだ。
ベストセラー作家になって周囲を見返すため、殺人鬼が服役中の刑務所に面会に向かう。
そこで、依頼主であるダリアンに「刑務所にファンレターを送ってくる"俺の女性ファン"に会い、そいつらをモデルに官能小説を書いて、俺に読ませるんだ。そうすれば、告白本のインタビューを受けさせてやる」と、取引を持ちかけられる。
ハリーは、その申し出を受けることにしたが、そのとたん事件に巻き込まれていく。
ここから二転三転していく展開は、時間制約型の純粋なサスペンスで、謎解きそのものを楽しむ風味は薄味かもしれない。
しかし、事件の全体像は複雑で意外。かなり意表をつかれた。
そしてその入り組んだ事情にハリーは、もうこれ以上ないほど翻弄される。
そしてその翻弄の結果たどり着いた作家的心境こそが、この長い物語の終着点である。
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「推理小説を書くにあたっていちばん厄介なのは、虚構の世界が現実ほどの謎には満ちてはいないという点にある。人生は文学がさしだした形式を打ち破る。」
「真の不安と危機感とは、先の見えない“いま”をいきていることからこそ生じるものなのだ。“いま”という時は、一瞬一瞬に類がなく、二度と繰りかえされることがない。ぼくらにわかっているのはただひとつ、それがいつかは終るということだけだ。」
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少しでも(小説ではなく)文学に心を寄せた経験のある者ならば、この最終80節のハリーの心情の吐露に少なからず心が動いたのではないだろうか。
私は激しく動揺した。
そして、出会う小説のほぼすべての「最初の一行」の出来や「最後の一行」の後の読後感に拘泥していた自分の読み方の甘っちょろさを後悔した。
文学とは読み手の生の投影に他ならない。
終わりのある「虚構」によって、明日も続いていく日々を組み上げる作家という仕事の苦難と覚悟。
それが原題の「Serialist」(連載作家)の真意だろう。
文学とは書き手と読み手の両方によって完成される。
それがどんな本であろうとも、その覚悟を持って読む時、今まで以上に豊穣な果実が得られるのだろうと思う。
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