2015年8月18日火曜日

フューチャーメンのタイムトラベル~キャプテン・フューチャー第八巻「時のロストワールド」

いよいよ第八巻「時のロストワールド」である。
なにがいよいよかと言うと、タイムトラベルものがついにキャプテン・フューチャー・シリーズに登場なのである。

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前巻で、最大の敵ウル・クォルンを斃してしまい、太陽系に完全な平和をもたらしてしまったキャプテン・フューチャー。こともあろうにその平和に退屈している。
そこに、遙か一億年の過去から救助を求める声が!
そして喜色満面にフューチャーメンは過去への冒険に旅立つというわけです。

世にタイムトラベルSFはその黎明期から数多く発表されています。

最も代表的なものはもちろん、ウェルズの「タイムマシン」でしょう。
主人公の科学者「タイムトラヴェラー」は、
一次元は点、二次元は線、三次元は空間。
しかし物体が存在し続けている限り、精確な事物の特定には「時間」を変数として考えることが必要になる。つまり時間は4つ目の次元であり、だから我々はその中を移動することができると、強弁した上に、普通では移動できない次元の中を移動可能にする技術的背景に関しては特に説明しないまま、実際に移動するためのマシンを作ってしまいました。

その他のSF作品も大同小異ですが、さすがハミルトンはひと味違います。
時間の流れは原子の中の電子の軌道速度が作っているから、これを速めれば未来に行けるし、逆回転すれば過去に行けるという科学的背景を「創造」してしまいました。
無茶苦茶ですが、SF作品としては不思議な説得力があります。堅固な虚構の科学です。

ある時期までのタイムトラベルSFは、わりと自由にオリジナリティのある時間旅行の方法を考えてきたのですが、アインシュタインが光速で飛ぶと時間が遅くなるなんてことを言い出したもので、多くのSFが相対性理論をベースによりリアリティのあるSF作品を作るようになっていきますが、そんなある日、本当に自分はタイムトラヴェラーである、と宣言する男まで現れました。
ご存知ジョン・タイター(詳しくはリンク先のwikiを)です。

このジョン・タイター騒動を素材として取り込んだのがゲーム作品シュタインズ・ゲートで、アニメ化もされたこの作品が最も手っ取り早く、今人類が実際に取り組んでいる、実現可能性のゼロでないタイムトラベルの全体像にアクセスできる経路だと思います。

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またタイムトラベルはラブロマンスと相性がいいというのが定説ですが、本作ではオットーまでが一億年前の地球娘と恋に落ちちゃうんですから、間違いないです。
カーティスについても、物語進行の都合上ジョオン・ランドールは今回お休みですが、その代わり依頼主のお嬢さんといい感じになってました。
一億年前の太陽系に恋に落ちる対象の人類がいる、というところにもずいぶん前の巻から科学的伏線を施してあってここがまた物語の盛り上がりどころになってます。


本当に盛り上がりどころ満載の本作のテーマは、滅亡に瀕した科学の星「カタイン」が、生き残るために火星を滅ぼして移住するか、コールドスリープで遠い別の惑星を目指すかという政治闘争になってます。
近年では「翠星のガルガンティア」で虚淵玄が採用した基本構造ですね。いつか人類もこのようなことを考える日が来るのでしょうか。


2015年8月15日土曜日

歴史ミステリの新しい傑作~ポール・アダム「ヴァイオリン職人の探求と推理」

1999年のクリスマスはクレモナで過ごした。


この「ヴァイオリン職人の探求と推理」には、その時の記憶を呼び覚ます精緻な描写が溢れている。
見事な筆力だ。

バイオリンの裏面史も実にイキイキと書かれていて引き込まれる。
ただ殺人事件についてのプロットには不十分なところがあると思う。事件自体の複雑さや意外さに不足はないが、探偵の作法には習 熟していないようだ。

素人探偵だから、ということを言っているのではない。
犯人を思いつきで追い詰めることは、どうせ物語なんだからなんだって作者の思い通りになるもんねと、作品から読者を閉めだしてしまうことになる。
読者との共同作業でなくてはならない。
そのための伏線なのだ。

それでもこの本の読後感の幸せは一級品のそれだ。
舞台が大好きなクレモナだったから、ということだけではないと思う。


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