物語的感興がない。
どこへ連れて行かれるのか、知りたくてしかたない、という気持ちになれない。
それは、本作での円城の文章が、全体的に章末にて読者を突き放しているからではないか、と思う。
これは引用なんだから、何が言いたいのか書かなくてもわかるよね、と言って一番大事な事をぼやかす。
もちろんそういう表現はあっていいのだ。
が、技法には使いドコロというものがある。
ここに引用されている膨大な文芸作品の世界観を理解していなくても、作品の最後まで読者を連れて行くのが小説家の作法というものではないか。
これでは曲がり角ごとの案内板に曖昧なカタチの矢印がついているようなもので、迷子になってしまう。
僕はこの本で章が変わる度に、新しい本を読み始めたような気分になって、その度作品世界から引き剥がされ、ついに本の中に入り込めないままラストシーンを迎えてしまった。
で、ここからはちょっとネタバレだが、この本は、「ダーウィンが信じた道―進化論に隠されたメッセージ」というドキュメンタリーにそっくりだ。
読後気がついて、読み返してみると、このノンフィクションを<ノベライゼーション>すると「屍者の帝国」になるんじゃないか、と思ったくらいだ。
エイドリアン・デズモンド ジェイムズ・ムーア
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主人公がワトソンだし、登場人物がみんな文芸上の架空の人物なので気付かないが、「屍者の帝国」中、最も重要なキャラクタは実在の人物ダーウィンで間違いない。
2009年に発表されたこの本は、それまであまり知られていなかったダーウィンという研究者の本当の姿を、そして進化論の本当の<動機>を教えてくれて衝撃的だった。
で、その波瀾万丈のダーウィン家の運命劇が、実にドラマティックで面白いのだ。
そして登場人物はかなり「屍者の帝国」とかぶっている。
僕は、「屍者の帝国」を読んだ後、こちらを読み返しているが、読めば読むほど、どちらが「物語」なのか、わからなくなってくる。